
2024年12月11日(水)~13日(金)の3日間、東京ポートシティ竹芝(東京都港区)で「XR Kaigi 2024」が開かれました。
国内XR業界を黎明期から賑わせてきたメディア「Mogura VR」を展開し、XRのコンサルティング事業なども行う株式会社Moguraが開催するこのイベント。XR業界発展に向けて本気でコミットしている事業社・開発者が集まると業界内でも評判です。
もちろんXRの最新動向をキャッチアップすることができます。今回はその中から特にすごかった展示を、編集部の独断と偏見も交えながらご紹介します!
過去最大規模の総動員数約2,800名
「XR Kaigi 2024」は「バーチャル領域(XR/メタバース/VTuber)の担い手が一挙に集結するカンファレンス」として開催され、今年で6回目を迎えます。
今回は「More Immersive, More Spatial」をテーマに掲げ、38のセッションを展開。会場では100組(企業・団体・個人クリエイター等)がエキスポに出展し、2日間にわたって開催されました。
今年の総動員数は約2,800名と、昨年に引き続き過去最大規模を記録。XRに対する社会の注目度の高まりが、この数字に表れていると言っていいでしょう。
それでは早速、エキスポ会場を見ていきましょう!
没入感のカギは「手と指」?|Diver-X株式会社
まずはDiver-X株式会社のブースから。
同社は2021年に設立されたばかりの日本のベンチャー企業で、「ハードウェアレベルの最適化で、人間が最高のパフォーマンスを発揮できるインターフェースを提供する。」というミッションを掲げています。
2023年に触覚フィードバック機能を搭載したグローブ型のVRコントローラー「ContactGlove1」をリリースしたのに続き、今回はさらにそれを進化させた「ContactGlove2」を展示しました。

VRコントローラーといえば、一般的にはヘッドマウントディスプレイに付属のコントローラーを指し、多くの場合、手に握る形状をしています。しかしこちらはグローブ型。これで何がどう変わるのか?デモを体験させてもらいました。
グローブは柔らかな素材でできており装着感も良好。生地の中には、シート状のセンサー(手のひら型に成形されたもの)が入っています。PCのUSB端子には受信機(ドングル)を接続しておきます。

PC画面に映る、バーチャルの手を見ながらまずキャリブレーション(調整)を行います。手を握ったり開いたり、指の間を広げたり閉じたり・・・。
そのうち画面の手が、自分の手とぴったり同じように動くようになります。ちょっと気味が悪いくらい?でも没入感を突き詰めるとはこういうことなのでしょう。
キャリブレーションを終えたらグローブをはめたままヘッドマウントディスプレイ(HMD)を被り、Steamの「The Lab」というゲームでデモ体験をさせてもらいました。
何やら物が散らばっているデスクがあります。そちらに歩み寄り、置いてある球体を手で掴みます。ハンドトラッキングはものによってコツが必要な場合がありますが、ContactGlove2では意のままに掴むことができます。
握った手を放し球体をデスクに置くと、当たり前ですが手が空きます。実はこの「手が空いた感覚」も没入感を高めるためには重要なんだそうです。通常のコントローラーの場合、VR空間で物を手放しても、「コントローラーを握る感覚」がどうしても残ってしまいます。
さらに、試しにデスクを手で「トントン」と叩いてみたら、「トントン」と手に感触が伝わってきます!思わず「うわっ!」と大声をあげてしまいました。現実には存在しないデスクに「確かに触れた」感じがしたので・・・。
言葉と画像では伝わらない部分も多いと思うので、ContactGlove2の動画を以下に貼り付けておきます。ぜひご覧ください!
新アプリでさらに使いやすくなった「mocopi」|ソニー株式会社
次はエンタテインメント・テクノロジー&サービスの大手、ソニー株式会社の展示です。
同社は3つの製品を展示しましたが、中でも特に一般ユーザーに馴染み深いのが「mocopi」。フルボディのモーションキャプチャーができる「モバイルモーションキャプチャー」として、2023年1月に発売された製品です。

mocopiは重さ8gのセンサーを全身6カ所(頭、腰、両手首、両足首)に取り付け、あらかじめアプリをインストールしたスマートフォン(スマホ)でセンサーの動きを読み取り、VR空間の自分のアバターを全身で操作するデバイスです。
モーションキャプチャーを気軽に使えるようにした点で非常に画期的な製品ですが、最近、ソフトウェアがアップデートされ、さらに精度が高まり使い勝手も良くなりました。
mocopiは発売当初、「スマホでモーションキャプチャーができる」という目的を最適化する形で開発されました。一方、mocopiの利用シーンの1つである「VR空間でのアバターの操作」において、ユーザーは当然HMDをかぶることになります。
そうするとmocopiとHMD、2つの異なるアルゴリズムからなる情報を、後から統合する必要があり、精度を高める上でこれが障壁になっていたそうです。
そこで新たに2024年11月、アプリケーションソフト「mocopi VR」をリリース。このアプリではHMDのセンサー情報をmocopiのデータと初めから統合し、1つのソニーのアルゴリズムで処理します。
さらに、これまで両手首に装着していたセンサーを両方の太もも(膝の上)に取り付けるようにしました。
結果、精度が大幅に改善されたということです。その他、例えばVRChatのワールドで「じっと寝転んでいるだけなのに体が動いていく(ズレていく)」といった現象も大幅に抑えることができるようになりました。
ソニーのブースでノリノリで踊る社員さんと、モニターに映るmocopi 公式アバター「RAYNOSちゃん」の動きもぴったり!

“闘うヒーロー”になりきるデバイス|bHaptics Inc.
bHaptics Inc.は韓国のVRデバイスメーカー。今回は「TactSuit Pro」「TactSuit Air」(以上は今回が世界初披露)、そして「TactSleeve」を展示しました。
TactSuit Proは32個の「ハプティックポイント」を搭載した「感覚ベスト」です。ハプティックポイントとは、着用者に力や振動などの感覚を与える部位のことで、それぞれの箇所にモーターが入っており、それが振動することで感覚を伝える仕組みです。

早速、試着させてもらいました。肩と脇の下にあるストラップでサイズ調整ができるので、丁度いい具合に調整します。さらに両手首にTactSleeveを取り付け、HMDを被り、コントローラーを握って、同社オリジナルのデモアプリをプレイしました。
VR空間に入ると、目の前の台にショットガン、ライフル、拳銃が置いてありました。好きなものを選んで、台の向こう側にある空きビンやマネキンを狙って打つというゲームです。
最初にライフルを手に取りました。右手でグリップを握り、左手を銃身に添え、銃床を右肩に当てて構え、空きビンに照準を定めてトリガー(コントローラーのレバー)を引くと——。
両手と肩に「ズドン!」と、銃を撃った反動が伝わってきます。しかも思ったより強い衝撃(衝撃の強さは調節可能)!
もう、これは正直に言いますね。男子にはたまらないヤツです!一度この没入感を体感してしまうと、元に戻れないかもしれません。

もう1つのTactSuit Airは16個のハプティックポイントを備えています。こちらは戦闘・格闘系ゲームよりも、VRChatのワールドで過ごすなど、「比較的ライトな用途」に適しているとのこと。
VRゲームやメタバースが好きな人はチェックしてみてください!
「XREAL One」これまたヒットの予感!|日本XREAL株式会社
XR Kaigi 2024で特に存在感を醸し出していた出展社は?と聞かれると、多くの人が日本XREAL株式会社と答えるのではないでしょうか。新製品「XREAL One」が国内初お目見えとなったからです。

同社の「Air」シリーズは世界的ヒットとなり、日本にもユーザーが数多くいます。
今回発売されたXREAL Oneの特長は、独自に開発した「X1チップ」を搭載していること。これにより、特別なソフトウェアやデバイスなしにグラス単独で3DoF表示ができるようになりました。

さらにX1チップは3ミリ秒という低遅延性を実現。動画を視聴する際、人間の認知限界値に到達するほどの低い遅延で再生できるとのことです。
外観はAirシリーズとほぼ同じ。本体の重さは82gと数字上、Airシリーズよりも上ですが、装着感は軽いです。視野角は50°とAirシリーズより広がっています。Air 2 Proで好評だった三段階のエレクトロクロミック調光が、XREAL Oneにも採用されています。
今回のデモではXREAL Oneに「Nintendo Switch」をつないで『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』をプレイさせてもらいました。映像も音声も「素晴らしい」のひと言です。
画面を追従にするか(顔の向きに合わせて動かすか)、3DoFにするか(空間に固定するか)、ボタン1つで変えられるのも便利でした。

ARデバイス向けレンズの未来が見えた|Cellid株式会社
XRデバイス関連ではCellid株式会社の展示も目を引きました。同社はARグラス用ディスプレイと空間認識ソフトウェアの開発を主軸とし、経済誌『Forbes』が選ぶアジアの注目スタートアップ100社(Forbes Asia 100 To Watch 2024)にも選ばれている注目企業です。
今回は、同社の技術を詰め込んだリファレンス・デザイン(製品ではない、事業者向けに作られた検証用ARグラス)を展示していました。

とにかく驚いたのがレンズです。パッと見たところ通常のメガネのレンズと何も変わりません。正しくは「ウェイブガイド」と呼ばれるもので、ナノメートル単位の加工が施され、つるの部分に搭載された小型プロジェクターから投射される映像を屈折させて目に届ける仕組みになっています。
同社の技術では、ガラス製ウェイブガイドで視野角60°、フルカラー表示を実現しています。デモを見せてもらうと、空中で鮮やかな色のハチドリが羽ばたいている様子が見えました。
このデモでは分かりませんでしたが、視野角60°は、ARグラス用レンズとしては突出した数字です。
同社が今後狙うのがプラスチック製ウェイブガイドの開発・研究です。プラスチック製はガラスよりも軽量だからです。一方で、プラスチック製は、視野角を広げたり、フルカラーで表示させることが比較的難しいそうです。

もう1つのリファレンス・デザインはプラスチック製ウェイブガイドを搭載し、視野角30°、フルカラー表示を実現しています。このリファレンス・デザインでは、人の顔を見ると、視野の中に人物の所属・氏名が文字で表示されるというデモを見せてもらいました。
同社のプラスチック製ウェイブガイドは1枚の重さが約2gだそうで。将来的には重さ30g程度のARグラスで、視野角30°以上でフルカラー表示ができる——。そんなARグラスが登場するはずだと同社は言います。
ワクワクするようなXR技術の未来を感じさせてくれる展示でした。
MiRZAが「XR Kaigi Award 2024」で受賞|株式会社NTTコノキュー
XR Kaigi 2024では株式会社NTTコノキューも展示を行い、こちらのブースにも大変な人だかりができていました。展示内容は9つと盛りだくさん!そのうち5つがMiRZAに関する展示でした。

内容は、遠隔作業ソリューション「NTT XR Real Support」、現実世界の空間上に現れたレースコース上を絶滅動物が走る迫力あるゲーム「LOST ANIMAL PLANET 〜LAP CUP〜」、“クオン”というかわいいキャラクターがブース内の各展示の概要をナビしてくれる「クオンナビ」。
さらに、画像や動画を空間内に配置して、プレゼンをしたり作業マニュアルの確認に利用ができる「AR ROOM」を展示していました。いずれもMiRZAを掛けて現実空間にARを重ね合わせるソリューションやアプリです。
これらに加えて「MiRZAソリューションパートナー」の紹介も行われ、来場者から盛んに質問が寄せられていました。
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XRで豊かな未来をともに築こう!「MiRZAソリューションパートナー」のご紹介

ところで会期初日、「XR Kaigi Award 2024」の発表・授賞式が行われました。これは「XR Kaigiに出展する全ブースを対象に、XRの普及に貢献している取り組みを表彰する」もので、株式会社NTTコノキュー/MiRZAは「デバイス部門」を受賞しました。
さらに会期2日目に開かれたセッションで、株式会社NTTコノキュー テクノロジー部門 空間ソリューション・プロダクトリーダーの浅井 勇大(あさい ゆうだい)さんが登壇。
「ARグラス導入で広がる現場作業支援の可能性とソフトウェア運用のコツ~MiRZAの現場導入を例に~」というテーマで講演を行いました。会場はほぼ満席となり、こちらも盛況でした。

XRの波は来ています!
以上、駆け足でご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?会場は学生さんとおぼしき若者を含め、老若男女たくさんの人たちで賑わっていました。展示を食い入るように見るまなざし、熱量も半端ありませんでした。
その現場を訪れた感想を率直に言うと、「XRの波は間違いなく来ている」ということになります——。
XR Kaigi 2024開催社である株式会社Mogura 代表取締役の久保田 瞬(くぼた しゅん)さんは次のように言います。
「毎年、XR Kaigiは進化を続けています。今年のXR Kaigi 2024は例年以上の盛り上がりを感じました。より没入度のある体験を、そしてインターフェースは平面から空間へ。まさに2024年のXR Kaigiは新たな時代を作る出展が並び、参加者たちが集まる場となりました」
XRの社会実装が今後も進み、皆さんの自宅や職場など、身近なところで「More Immersive, More Spatial」なXR体験が、当たり前のもの・ことになっていくことでしょう。