普通のメガネとそう変わらない大きさ・形のフレームに、プロセッサ・ディスプレイ・カメラ・スピーカー・マイク・各種センサーなどを搭載したXRグラス。
動画視聴やゲーム、音楽視聴など、XRグラスでできることは複数ありますが、仕事でも使えるのでしょうか?本記事では、XRグラスのビジネス活用について、事例紹介も含めて解説していきます。
XRグラスはすでに実際の現場や業務に活用されている
実は、XRグラスはもうすでに「仕事」でも活用されています。
業種や職種がまだ限られていたり、採用されているXRグラスの種類もそれほど多くはなかったりするものの、業務内容にマッチした現場では作業時間の短縮やミスの軽減など、作業効率向上にXRグラスが貢献しています。
XRグラスがどのように仕事に活用されているか、今後どのような業務で活用できそうか、具体的な事例をまじえながら見ていきましょう。
XRグラスを仕事に活かせる業務はさまざま
XRグラスを仕事に活用している事例として、4つの業務を紹介します。
- 現場業務
- リモート会議
- トレーニング・シミュレーション
- システム開発(プログラミング)業務
現場業務:工場や倉庫作業などで活用
XRグラスを着用した作業者が、ディスプレイに表示された情報にしたがって作業をおこなうというパターン。具体的には、工場や商品倉庫などで部品や商品を選別・収集する(ピッキング)作業などが該当します。
XRグラスを着用することで、必要な情報が目の前に表示されるだけでなく、ハンズフリーで作業できるのがメリットです。
また、マイクとスピーカー、通信機能を備えたXRグラスであれば、音声通話も可能。離れた場所にいる別の作業者や指示者とリアルタイムで通話しながら作業をしたり、指示を受けたりすることができます。
実際に法人向けに提供されているソリューションとしては、NTTコノキューの「NTT XR Real Support」や、NECの「ARピッキング」などがあります。
その他、Magic LeapのXRグラス「Magic Leap 2」は、リモートアシスタントアプリ「Magic Leap Assist」がアプリメニューからダウンロード可能。追加でソリューションを導入することなく、すぐに利用できます。
また、同アプリはMagic Leap 2間だけでなく、Webブラウザ経由でPCやスマートフォンユーザーともコミュニケーションを取ることが可能です。
リモート会議:3Dオブジェクトを共有しながらの会議に活用
XRグラスを通じてリモート会議をおこなうパターン。XRグラスのディスプレイを通じて資料などの共有や、音声によるコミュニケーションも可能です。
XRグラスを利用したリモート会議では、従来のWeb会議ツールなどでは実現が難しい、3DオブジェクトをCG表示で共有できるというメリットがあります。
CISCOが提供する「Webex Hologram」では、Magic Leap 2などのXRグラスを装着した会議参加者が、お互いに3Dオブジェクトを見ながら会議を進めることができます。
トレーニング・シミュレーション:業務研修から専門職の技術継承まで幅広く活用
(出典:医療用画像3D空間表示サービスの医療機器「Holoeyes MD」が「IT導入補助金2020」の補助金対象ITツールに認定されました。|Holoeyes株式会社)
トレーニングやシミュレーションでのXRグラス活用は、アルバイトの業務研修から専門職の技術継承まで、幅広い業種・職種に応用が可能です。
XRグラスを利用したAR・VR・MRでのトレーニングやシミュレーションは、体験者の学習効率を高めるだけでなく、指導する側にとっても教材や講師のコスト抑制などに効果を発揮します。
トレーニング・シミュレーションの分野では、日本の医療系XR企業であるHoloeyesの「Holoeyes MD」があります。Holoeyes MDは本来、医療用の診断画像を3D化するソリューション。ですが、XRグラスを通じて3Dデータを確認することで、3D空間上で術前シミュレーションをしたり、手術中のアシストにも活用できます。
ほかにも、海外企業Arvizioが提供する「AR Instructor」は、3Dオブジェクトを表示しながら作業手順を学習するだけでなく、作業現場でのARガイド・ARアシストにも使用可能。汎用性の高さも魅力となっています。
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システム開発(プログラミング)業務:開発効率向上のために活用
XREAL Air 2 ProなどのARグラスをPC接続し、大画面・複数画面でシステム開発やアプリのプログラミングをするという活用法。画面が広いので作業効率もよく、複数画面を展開すれば並行作業や、リファレンス(参考資料やソースコード置き場)などにもアクセスしやすいというメリットがあります。
3Dオブジェクトなどの本格的なXRコンテンツを扱わないぶん、小型のXRグラスでも十分実用的。現状では企業よりも個人開発者やリモートワーカーの一部で実践している段階ですが、将来的にはより規模の大きいチームや企業でも導入が進むかもしれません。
なお、LenovoのARスマートグラス「ThinkReality A3」の場合、デバイス活用法の一例としてノートPCのバーチャルモニターとして活用することを提案しています。
XRグラスを仕事に使うのに向いている分野とは?
XRグラスの活用が向いているのは、実際に作業者がおもむく「現場」がある業種・業務。軽量・小型のXRグラスであれば、ハンズフリーでの作業や、リモート連携ができるなどのメリットがあります。
ここではXRグラスの活用に向く主要な分野を3つ紹介します。
- 製造・土木・建築分野
- 医療分野
- 研修・トレーニング分野
製造・土木・建築分野:図版の3D化やプロトタイプレビュー、作業現場の支援までおこなう
(出典:株式会社インフォマティクスが、MagicLeap 2対応のAR/MRアプリケーションGyroEye販売開始|株式会社インフォマティクス)
製造・土木・建築の分野は、図面の3D化や製品プロトタイプのレビューに始まり、作業現場ではリモートでの作業支援など、XRグラスを活用できる範囲が広いのが特徴です。
XRグラスを活用することで、現場外(施工前)の作業では人の移動や実物でのプロトタイプ制作などに関わるコスト削減が可能。
一方、作業現場ではミスの軽減や作業時間の短縮につながるなど、作業工程に応じてXRグラス活用によるメリットもさまざまです。
実際に現場に導入されているサービスとしては、インフォマティクスの「GyroEye」があります。GyroEyeは建設現場などの実空間に、図面やBIM/CIMデータを実寸の3Dで投影可能。実際の施工時だけでなく、受注前のプレゼンなどにも活用できるのが長所です。
また、海外企業Argyleの「Argyle」もGyroEyeと同様、建設用のBIMデータを3D化して現実の光景に重ね合わせるサービス。作業者間でのイメージ共有・ミス防止・作業効率の向上などに効果を発揮します。
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医療分野:遠隔医療や医療行為におけるトレーニングなど幅広い業務領域に対応
医療分野の場合、外科手術(トレーニング含む)・遠隔医療・バーチャル学習・リモート会議(医学カンファレンス)など、広い業務領域でXRグラスを活用できます。
Magic Leap 2は2023年1月に医療用電気機器の国際技術規格「IEC60601」を取得。米国の医療系XR企業、SentiARと共同で心臓手術用ソリューション「CommandEP」を開発し、実際の手術でも使用されました。
その他、先述の「Holoeyes MD」や、Vuzixのスマートグラス「M400」が医療現場で活用されるなど、医療分野はXRグラスの利用が比較的進んでいる分野といえるでしょう。
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研修・トレーニング分野:業種・業界問わずXRと相性がよい
(出典:ARグラスで未来を防災。 3Dジオラマで水害発生時の都市を俯瞰し避難所を確認できるアプリ『Diorama Vision ‐浸水マップ‐』をリリース|アップフロンティア株式会社)
業界・業種に関わらず、研修・トレーニング分野はXRグラスが活用しやすい分野のひとつ。
XRグラスはオブジェクトを3D表示できるため、実際に身体を動かす種類の研修・トレーニングにおいて、オブジェクトをさまざまな角度から見たり動かしたりしながら体験できる点がメリットです。
アップフロンティア「Diorama Vision ‐浸水マップ‐」では、水害が発生した状態のジオラマに入り込み、バーチャル空間内で避難経路を実際に移動することが可能。よりリアルに近い浸水体験をすることで、避難活動に対する意識を高めることができます。
また、Fronline.ioが提供するソリューション「3D Virtual Training Room」では、最初にバーチャル空間を構築し、その中で研修などを実施できます。
研修内容に応じて構築するバーチャル空間を変えられるため、汎用性が高いのも便利です。
XRグラスの性能向上と普及により、XRグラスが活用される業務領域も広がっていく
XRグラスのビジネス活用は、現時点では特定の業種や職種にとどまっています。
しかし今後、XRグラスの性能が向上したり、VRゴーグル(VRヘッドセット)が「グラス」と呼べるほどに小型・軽量化したりすれば、XRグラスのビジネス活用はより広い範囲に拡大し、より多くのXRグラスをビジネスの現場で見かけることになるでしょう。
そうした未来に備え、積極的な情報収集や、ビジネス以外でも実際にXRグラスを体験してみることをおすすめします。