
NTTドコモグループの新規事業創出プログラムから設立された、XR事業社の株式会社複合現実製作所。
同社が提供する建築鉄骨事業社向けXRソリューション「L'OCZHIT」(ロクジット)では、鉄骨加工の作業時間が大幅に削減できるといいます。このL'OCZHITがNTTコノキューデバイスのXRグラス「MiRZA」で使えるようになりました。
一体どのようなソリューションなのか、株式会社複合現実製作所 代表取締役社長の山﨑 健生(やまさき たけお)さんにお話を伺いました。
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鉄骨には「加工」の工程が欠かせない
鉄骨は比較的大きな建物の主要構造部(柱や梁などの骨組み)に使われています。集合住宅や工場の建屋に「鉄骨造」の建物は数多くありますし、高層マンションのような鉄筋コンクリート建築の骨組みとしても使われています。
鉄骨は、設計図に合わせて加工した上で建築現場に運ばれます。そのような、鉄骨の加工・処理を担うのが建築鉄骨事業社です。
建築鉄骨事業社は建築会社などから依頼を受け、必要な形の鉄骨(I形鋼、H形鋼など)を調達し、設計図をもとに切断、穴開け、溶接といった加工をします。決められた寸法精度での加工が求められ、基本的には人が図面を見ながら一つひとつ計測・加工を行います。
しかし、どんなに熟練の作業者でもヒューマンエラーをゼロにするのは困難。検査段階で加工ミスが判明し、再度作業に取り掛かる・・・といったことが、どうしても起こりえます。
「そのような従来、避けることが難しかった無駄をL'OCZHITで低減させることができます」と山﨑さんは言います。

人の手に頼っていた加工技術をXRで補う
ここで「BIM(Building Information Modeling/読み方は「ビム」または「ビーアイエム」)」について少し説明しておきましょう。
建築業界で「3D CAD」(3次元で設計図を描くソフト)が広まりつつありますが、最近は3D CADの発展形ともいえるBIMを使う動きが主流になろうとしています。
BIMが優れているのは、建物の3Dモデルおよび設計図にさまざまな情報を盛り込めること。例えばBIMデータには、建物を構成する建材一つひとつの寸法・形状にかかわる情報が含まれています。もちろん、建物に使われる鉄骨の情報もその中に含まれます。
さらに、各建材のコストや加工手順といった「属性情報」も盛り込むことが可能。建物は建てた後も、外壁を塗り替え・交換するなど定期的なメンテナンスが必要です。BIMはそのような、建物の運用・管理などにも活用されています。
L'OCZHITではこのBIMデータを利用します。
ユーザーが鉄骨専用CAD(建物の鉄骨部分のCAD)から出力したBIMデータをサーバーにアップロードすると、その情報をもとに、鉄骨一つひとつの3Dモデルが自動作成されます。ユーザーはすぐに鉄骨加工のプロセスに取り掛かることができます。

作業者はMiRZAを掛け、スマートフォンの専用アプリで、加工作業に取り掛かる鉄骨のデータを選びます。すると、目の前の鉄骨に重なる形で3D完成図(加工後の鉄骨)をARオブジェクトとして見ることができるのです。
鉄骨がよく見えるように3D完成図を半透明表示にしたり、寸法をARで表示したりすることも可能。6DoFに対応しているため、作業者はMiRZAを通して、鉄骨と3D完成図が重なった様子をあらゆる位置・角度から見ることができます(以下の動画は「HoloLens 2」で稼働するバージョンのもの)。

現状の建築鉄骨業現場では「CADから作成された鉄骨の三面図(鉄骨を三方向から描いた図面)や断面図が書かれた制作図をプリントアウトし、作業者が目の前の鉄骨と見比べながら『けがき』をして鉄骨加工を行っているケースが多い」と山﨑さんは言います。
「けがき」とは紙の図面を見ながら、鉄骨にマーカーペンなどで線や点を書き込む作業のこと。正確さとスピードが求められる、まさに職人技です。
ただし、このプロセスでミスが起こることがありえます。例えば、鉄骨の右側面に鋼のプレートを溶接しなければならないのに、作業者が図面を見誤り、左側面に溶接してしまうといったミスが起こるかもしれません。
しかし、ARで3D完成図を重ねて見ていれば、そのようなミスは起こりにくくなります。結果、鉄骨加工の作業時間を大幅削減できると山﨑さんは言います。
「L'OCZHITを使えば、図面を描き起こす時間、図面を読み取ってけがきなどを行う作業時間、検査時間を削減でき、全体で約47%の時間短縮が可能です」(山﨑さん)
人手不足は建築鉄骨業界においても深刻で、熟練の作業者の高齢化により技術継承も難しくなっています。
L'OCZHITは鉄骨加工をサポートすることでそのような課題を解消し、建築鉄骨業の事業継続の一助になるソリューションということができます。

MiRZAに対応することでさらに作業効率アップ
L'OCZHITは従来、iPhoneやiPadを鉄骨にかざしてAR画像を重ねて見るバージョンと、MicrosoftのXRデバイス「HoloLens 2」を利用するバージョンが提供されてきました。
「L'OCZHITをご利用いただいているお客さまから、より軽量で掛け心地の良いXRグラスを望む声があり、今回、MiRZAに対応することになりました。MiRZAはワイヤレスで扱いやすく、レンズが透明で視認性に優れるといったメリットもあります。作業効率はさらに向上するでしょう」(山﨑さん)
山﨑さんは2020年に株式会社複合現実製作所を設立しました。
複合現実——。その名のごとく、XR関連サービスの企画・開発を行う会社ですが、建築・製造業に向けたサービスを主軸に据える意図で、社名に「製作所」と付けたそうです。
まさにこの社名に込めた思いの通り、建築・製造業においてXRを活用する余地はまだまだあると山﨑さんはみています。山﨑さんによると、建築・製造業にはXRを活用しやすいという側面もあるそうです。
「例えば鉄骨はマイクロメートル単位といった高精度は求められず、XRデバイスの空間認識能力に、ある程度制限があっても問題ありません。3Dモデルについてもそこまで精細なモデリングやレンダリングを作り込む必要がなく、スマートフォンによる画像処理で問題なく動かすことができます」(山﨑さん)
今後はL'OCZHITを利用するお客さまからのフィードバックを受けてサービス改善を進めるとともに、建築・製造業全般への水平展開を見込んで、新たなXRソリューションの開発にも取り組んでいきたいと山﨑さんは言います。
人手不足や作業効率化にお悩みの建築鉄骨事業社の皆さん、そして自社事業にL'OCZHITを応用できないかとお考えの皆さんは、ぜひL'OCZHITのホームページからお問い合わせください。
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