
このところ、グラスタイプのXRデバイスが注目を集めています。メガネのように軽量で自然な外見を保ったままXR体験を得られるグラスタイプは、今後のXRデバイス市場でその存在感を増していくことでしょう。
新製品として2025年春から量産されるJorjin Technologiesの「J8L ARグラス」もグラスタイプのXRデバイス(ARグラス)です。
どのような製品なのか、日本代理店である株式会社シルバーアイにおじゃましてお話を伺うとともに、試作機でデモ体験をさせてもらいました。
LetinARレンズモジュールを搭載したARグラス
Jorjin Technologies(以下、Jorjin)は、2024年1月にアメリカ・ラスベガスで開催されたCES 2024にて「J8L ARグラス」を発表しました。XRヘッドセットのトレンドになりつつある、グラスタイプのXRデバイスです。
台湾に拠点を構えるJorjinが開発し、2025年春に量産が開始されることが決定しました。日本では株式会社シルバーアイ(以下、シルバーアイ)が代理店として国内販売を行います。
まずは外観・スペックから見ていきましょう。なお、基本的にいずれもJorjinが公表しているスペック値を参照しています。
外観は黒色を基調にしたシンプルなデザインで、通常のメガネやサングラスと比べると、リムとつるの部分がやや太めになっています。レンズはクリアですが、同梱されている「バイザー」を取り付けると薄めの黒、サングラスのような見え方になります。

本体の重さは約80gと、XREALシリーズやRokid Maxと大きくは変わりません。
光学システムとしてNTTコノキューデバイスの「MiRZA」と同じ、LetinARレンズモジュールを採用しているのが特徴の一つです。後ほどデモ体験のところで述べますが、とても見やすい表示です。
解像度は1920×1080ピクセル、FOV(視野角)は対角(D)45度・水平(H)40度・垂直(V)21度、レンズはクリアですが、バイザーを取り付けた状態での透過率は60%。
カメラは解像度8Mピクセルのメインカメラを1基、ハンドジェスチャートラッキング用のカメラを2基搭載しています。

他に3DoFセンサー(ソフトウェアにより6DoF対応が可能)、スピーカー、マイクをそれぞれ2基搭載し、IP54相当の防塵・防水性能を備えています。
AR関連の処理はスマートフォン(スマホ)に一任されるため、動作にはAndroidスマホ(基本的にSnapdragonのSoCを搭載した機種)が必要です。
左のテンプルの端から伸びるUSB Type-Cケーブルを、ディスプレイポートに対応したスマホに接続し、専用アプリを介して各種AR体験が可能となります。
なおJ8L ARグラス本体にバッテリーは非搭載で、接続したUSB Type-Cケーブルから給電して動作します。
有名メーカーのXRデバイスをODM供給
ところで日本代理店のシルバーアイは半導体・電子部品の販売代理事業を軸に、IoTを活用した各種ソリューション、業務用の車載用品・液晶モニター、デジタルサイネージの広告代理店業務なども行なっているBtoB企業です。
同社とJorjinはもともと電子部品や半導体での取引があり、その中でJ8L ARグラスが販売されることを把握したシルバーアイが、日本で最初のディストリビューターとして販売を担うことになったそうです。
シルバーアイ e-ソリューション事業本部 部長の福田 安男(ふくだ やすお)さんはJorjinについて、次のように語ります。
「社名こそメジャーではありませんが、10年以上前からARデバイスを開発し、大手ITメーカーのARデバイスのODM供給(委託者のブランドで製品を設計・生産すること)を手がけてきました。『Google Glass』の一部にもJorjinの技術が生かされています」(福田さん)
J8L ARグラスは、同社が自社ブランドを掲げて本格的に日本で一般販売する初めてのARグラスになるそうです。
その最大の特徴は「LetinAR FrontiAR Proレンズモジュールを採用したことによる明るい画像、そして優れた音質と軽量さ」だと福田さんは言います。

試作機でデモ動画を体験!
今回、いち早くJ8L ARグラスに触らせてもらいました。世界でまだ30台しか生産されていない試作品で、一部ハードウェアが未実装でありSDK(ソフト開発キット)が開発中ということで、今回はスマホで再生した動画をミラーリングで見せてもらいました。
本体の重さ約80gということで、一般的な通常のメガネよりは重いのですが、実際に掛けてみると、とても軽やかです。重量配分が考慮された構造と、ユーザーの頭の形に柔軟に対応する、つるのデザインによる効果のようです。
ノーズパッドについても3段階の調整機能が備わっているため、ユーザーの顔によりフィットした掛け心地で装着することが可能です。

取材時点では3DoF/6DoFコンテンツは体験できませんでしたが、グラス内に出力されたデモ動画とつる部分にあるスピーカーから出力された音声は体験できました。
デモ動画はフルCG動画で、表示はいたって滑らか。レンズ越しで、中空に体感30インチ程度の画面サイズで見ることができました。
今回はバイザーを付けて見たので、画面の周りに見える現実空間は、やや暗く見えました。映画のような映像を見るときは、この方が画面がくっきり見えて良さそうです。
音声についても動画とズレがないのはもちろん、ステレオかつ低音部までしっかり聞こえて迫力ある音作りと感じました。
福田さんによると「現在、SDKの開発が進んでいて間もなく提供開始予定で、弊社ではソフトウェアの開発パートナー企業を募集しています」とのことで、フル機能を実装したデモ機でのAR体験もほどなくして体感できそうです。
シルバーアイはBtoB領域で広める戦略
BtoB企業であるシルバーアイの販売戦略はどのようなものでしょうか。
「弊社ではJ8L ARグラスのコンシューマー販売は考えておらず、あくまでBtoBでの提供を予定しています。既存顧客を中心に新規顧客も獲得しながら、ARソリューションの提案とともにJ8L ARグラスを販売する予定です」(福田さん)
同社がXR事業を手がけるのは初めてだそうで、可能性を色々探っているとのことです。

「例えば製造業や建設業で、現場担当者にARグラス越しに作業手順やマニュアルをリアルタイム表示して作業の効率化を図るようなソリューションや、博物館や美術館で来館者にARグラスを装着してもらい、インタラクティブなARガイドを提供するソリューションなどが想定されます」(福田さん)
同社の事業の主軸の一つであるデジタルサイネージとARグラスを組み合わせたり、スポーツイベントで活用できるARソリューションや、飲食業界の研修にARグラスを活用するソリューションなども考えられそうです。
「今後は、展示会などを通してJ8L ARグラスの魅力についてお伝えしながら、お客様やパートナー企業との対話を重ねて最適なソリューションを提案していければと考えています」(福田さん)
現時点ではコンシューマーユーザーが直接入手することは難しそうなJ8L ARグラスですが、シルバーアイの事業展開によっては仕事やイベントなどで、私たちも触れる可能性があります。
これもまた、XRが社会実装されていく1つの形なのでしょう。ともかく2025年春の量産開始を、首を長くして待ちたいものです。