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「Android XR」はGoogleのXR戦略の決定打になりそう

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「そろそろ発表か?」と期待とともにささやかれていた、Googleの新たなXR事業戦略が明らかになりました。

「Android XR」がついに発表され、それに伴う新デバイスや事業計画の一端についても発表されることとなったのです。

これまでのGoogleのXR事業の変遷を改めて振り返りつつ、Android XRの概要と魅力をお伝えします。

Google、待望のXR専用OSを発表!その概要は?

2024年12月13日、Googleは「Android XR」を発表しました。Android XRは、XRデバイス用の新しい「OS」です。

すでにGoogleは、SamsungとQualcommとともに新たなXRヘッドセットを開発していると発表していましたが、デバイスの開発と同時にAndroid OSについてもSamsungと共同開発を進めていたようで、同日発表されたSamsungのXRヘッドセット「Project Moohan(プロトタイプ名)」とともにこのAndroid XRも発表された形です。

Android XRは、VR/AR/MRの各種XRデバイス用のOSで、装着者の視界に仮想ディスプレイを表示します。

仮想ディスプレイに大画面もしくは複数のウィンドウを開き、Android XR向けにカスタマイズされたGoogleの各種アプリ、「Chrome」「YouTube」「Googleマップ」「Googleフォト」などをマルチタスクで実行できます。

Android OSがベースなので、私たちがスマホやタブレットで利用しているアプリをGoogle Playからダウンロードして動作することもできるとされています。もちろん、XR専用のアプリやゲーム、没入型コンテンツも多数登場するそうです。

さらにAndroid XRの大きな特徴は、GoogleのAIアシスタント「Gemini」が標準搭載されていること。Geminiは視界内の文字や物体を翻訳や検索してくれるのですが、ユーザーはそういった操作を会話によるコミュニケーションで実行できます。

 Android XRデバイスを装着していると、AIの助けを借りながらハンズフリーで目の前の情報を素早く得られるような、とても便利な日常を送れるようになりそうです。

消えた?Googleの「Daydream」とは

そんな期待しかないAndroid XRですが、実はGoogleはこれまでいくつかのXRプラットフォームを提供してきました。直接的に影響しているわけではないようですが、これまでの挑戦が今回のAndroid XRへつながったのかもしれません。

その1つが「Google Glass」。2012年にGoogleが発表したARウェアラブルデバイスですが、非常に高価格であったこと、プライバシー侵害の懸念があったことなどから普及することはなく、その後は法人向けに転換され、徐々に話題になることもなく2023年に完全にプロジェクトが消滅してしまいました。

ここでは詳細なスペックなどは割愛しますが、ちょっと時代を先取りし過ぎた製品だったのでしょう。

また2014年にGoogleが提供を開始したのは「Google Cardboard」。レンズとボタンが内蔵された段ボール製の筐体にスマホをセットしてVRアプリやVRコンテンツを気軽に楽しむことができました。

シンプルな仕組みで、教育現場やイベントなどで活用されましたが、本格的なVRゴーグルには遠く及ばず大きく普及することはありませんでした。

そしてGoogleは2016年に「Google Daydream」というVRプラットフォームの提供を開始します。

Google Daydreamは、対応するAndroidスマホにGoogle Playストアから専用アプリをダウンロードしてインストールし、VRヘッドセット「Daydream View」に取り付けてVRコンテンツを利用できるという仕組みでした。

操作にはリモコン型のコントローラーが必要で、動画やゲームなどのVR体験が可能でした。 

しかしDaydream ViewもGoogle Cardboardと同じようにレンズの前にスマホを固定するタイプの製品であり、やはりVR専用デバイスでのVR体験には遠く及ぶものではなく、こちらも大きなヒットとはなりませんでした。

ハードウェアの人気が伸び悩むとともに、Daydream対応のアプリやコンテンツもなかなか充実することもありませんでした。

ちなみに、Google Daydreamの規格に沿ったスタンドアロンタイプのVRヘッドセットがLenovoから発売されていました。2018年発売の「Lenovo Mirage Solo with Daydream」がそれです。

解像度2,560×1,440ピクセルのLCDディスプレイを内蔵し、視野角は約110度、6DoF対応などなかなかのスペックでしたが、Daydreamのコンテンツが充実しないためにセールス的にかなりの苦戦を強いられました。

結局のところ、ユーザーから大きな支持を得られなかったGoogle Daydream。2019年10月にGoogleはDaydream Viewの販売を終了してしまいます。そしてGoogleはDaydreamプロジェクトからも撤退し、VRから軸足を移して「Google Lens」や「Google Map」でのAR技術の開発を進めて行くことになりました。

「Daydream」の日本語訳は「白昼夢」。まさに白昼夢のごとくGoogleのVR事業は終焉へと至ったのでした。

「Android XR」はヒットが約束されている!?

こうしてGoogle Daydreamが消えて約5年が過ぎ、今回のAndroid XRが発表されたというわけです。商業的成功を掴むことができなかったこれまでの歴史を鑑みると、Android XRに対して大きな期待感を持ちながらも、今回は大丈夫なのか?という不安も頭をもたげてきます。

しかし、先に触れた通りAndroid XRは、スマホに搭載されるOSであるAndroidをベースに設計されています。Androidは、実際のところスマホやタブレット以外にも、時計やテレビ、自動車などなどさまざまなデバイスにOSとして搭載されています。

 Googleが掲げた「すべての人のコンピューティングを変革する」というコンセプトのもとに開発されたAndroidですから、その目標は広く達成しているといえるでしょう。

そして今回、GoogleはAndroid XRと共にXRデバイス市場へ再進出することになります。成熟し、広く普及しているAndroidですから、Android XRもまた多くのユーザーに受け入れられることでしょう。

 いつも使っているGoogleアプリをXRで利用できるうえ、スマホで使い慣れたアプリもGoogle Playからダウンロードしてすぐさま利用できるとなれば、Androidスマホを使っているユーザーがXRデバイスを選ぶ際、“最初に手に取りたくなるデバイス”となり得ます。

また、昨今急速に浸透してきている生成AIやAIアシスタント機能を標準搭載することも、多くのユーザーから支持されるでしょう。

さらに言うなら、すでにAndroid向けにさまざまなアプリやサービスを提供してきた開発者にとってもこれまでの開発ノウハウを活かせることから歓迎されそうです。なお、Android XRの発表と同時に「Android XR SDK」「Jetpack XR SDK」といった開発ツールもリリースされました。

最初のAndroid XRデバイス「Project Moohan」は2025年に発売される予定ですが、発売直後にはすでにGoogle Playで提供されるアプリも充実しているものと予想されます。

もちろんAndroid XRは新たなOSであり、搭載デバイスはこれまでにない製品です。

しかし多くのユーザーにとって、まったく未知の「ぽっと出」の新製品ではなく、Androidの延長線のデバイスとして世に出るのですから、GoogleのこれまでのXRデバイスやプラットフォームのような失敗には至らないのではないでしょうか。

そんな期待をしながら、製品の登場を心待ちにしたいものです。

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この記事を書いた人
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