アメリカのスタートアップ企業・Enovix社は2024年6月24日、MRヘッドセット向けにエネルギー密度の高いバッテリーを開発し、そのバッテリーが特定の企業に採用されることを発表しました。
この発表は多くのTech系、XR系メディアの注目を集める事態となりました。
さて、どのような点に注目が集まったのでしょうか?
XRデバイスとバッテリーの関係
XRデバイスには当然のことながら電源が必要です。
例えばApple Vision Proは、スマホくらいのポケットに収まるサイズの外部バッテリーを、本体に接続してバッテリー駆動します。公表によるとフル充電での最大駆動時間は約2時間とされています。
一方、Meta Quest 3は本体にバッテリーが内蔵されており、公表によると最大使用可能時間は平均2.2時間となっています。
なお、Meta Quest 3にはオプションでバッテリー付きのストラップがあり、これを使えばさらに約2時間、続けて使うこともできます。
▽関連記事
カラーパススルー対応VRヘッドセットの本命「Meta Quest 3」レビュー
もちろんApple Vision ProもMeta Quest 3も、電源ケーブルを接続して給電しながら使えますが、そうなると装着したユーザーの移動範囲は限られてしまい、スタンドアロン機種であることの魅力が減ってしまうことになります。だからこそ、バッテリーはXRデバイスにとって欠かせないものなのです。
しかし現状、Apple Vision ProにしてもMeta Quest 3にしても、「最大約2時間」という駆動時間はどうでしょう?「十分とは言い難い」と思っている人が多いのではないでしょうか?
電源ケーブルが使えない場所でも長時間ゲームをプレイしたり、仕事で使いたい人もいるはずです。
新型バッテリー登場に世間がザワつく
Enovix社は今までにない高性能なバッテリーを開発しています。今回の同社の発表に注目が集まっているのは、同社がMRヘッドセット向けバッテリーの供給先を明確にしていないからです。
ニュースリリースでは「カリフォルニアを拠点とする大手テクノロジー企業」とされています。
発表を目にした多くの人やメディアは「カリフォルニアでMRヘッドセットを作ってる大手企業って・・・それってAppleとMeta、どっちなんです?」と思わずツッコんでしまったことでしょう。
米国のXR系メディア「UploadVR」も2024年7月16日に記事を掲載し、Enovix社のバッテリーの供給先に注目しています。
Enovix社は2006年に創業した企業で、最新のEV(電気自動車)やモバイルデバイスなどに搭載される、次世代型のリチウムイオンバッテリーを開発、製造してきました。
同社のバッテリーの特徴は、エネルギー密度を高めることができる「シリコンアノード構造」とエネルギー効率を高める「3Dセル構造」を採用しているところ。
これにより、従来よりもコンパクトでありながら電池寿命が長く、安全なリチウムイオンバッテリーの製造を可能にしているのです。だからこそ、数多く存在するバッテリー製造企業の中でも特に注目されている訳です。
そんなEnovix社がXRデバイス向けにバッテリーを提供するとなれば、関係者から注目を集めるのも当然です。
XRデバイス普及のカギになる?
ノートパソコンやスマートフォン、タブレットなどのモバイルデバイスがここまで大きく普及した背景にバッテリー、特にリチウムイオンバッテリーの進化が影響していることは間違いないでしょう。
長時間の給電を可能にするとともに、繰り返し充電しても性能が劣化しにくいという性質もあります。
携帯電話・スマホについては、「寝ているとき以外、使える(バッテリーがもつ)」からこそ、ここまで普及したという側面があります。
小型・軽量であることもリチウムイオンバッテリーの大きなメリットです。ポケットに入るサイズだからこそ、携帯電話・スマホは多くの人が持ち歩くデバイスとして認められたのは間違いありません。
XRデバイスも同様に、「せっかくならバッテリー駆動時間を気にしないで使えて、軽快に掛けられるものがいいよね」というのがユーザーの素直な心情でしょう。
そこに“颯爽”と登場したのが、Enovix社のバッテリーなのです。同社がMRヘッドセット向けに提供する新型リチウムイオンバッテリーも、その性能の高さから、搭載される製品の駆動時間が長くなることは確実です。
またEnovix社のバッテリーが小型・軽量であることもXRデバイスにとっては、電源ケーブルなしで利用するときに大きな利点となるでしょう。
そうなればXRデバイスが、さらにユーザーに支持される製品になる可能性も高いでしょう。
ここ数年でXRデバイスは徐々に普及し、ユーザー数を増やしていますが、スマホのようにほとんどの人が持つデバイスには、まだまだ至っていません。
しかしこのEnovix社のバッテリーが搭載されることで、XRデバイスが大きく進化し、誰もが欲しがる、いや、“持っていて当然のモバイルデバイス”として昇華することもあるかもしれません。
Enovix社の新型リチウムイオンバッテリーが、どこの「カリフォルニア州にある大手テクノロジー企業」に採用されるか・・・。引き続き注目です。刮目して続報を待ちましょう。
▽関連記事
バッテリー残量無限!?Meta Quest 2・3対応の「Syntech 急速充電モジュール付 Link対応ケーブル 5M」を実際に使ってみた