コラム

米10代若者にVRが浸透中、果たして日本では?

2024.09.24

米10代若者にVRが浸透中、果たして日本では?

アメリカの投資銀行Piper Sandlerでは、さまざまな市場調査を行なっています。

その1つとして、10代の若者に定期的にアンケート調査をしているのですが、2024年春の調査結果に興味深い結果が見つかりました。

それは「アメリカでは10代の若者の33%がVRデバイスを所有している」というもの。意外なその結果と日本の情勢を比較してみえてくることとは──?

目次

    アメリカではなんと高校生の33%がVRデバイスを所有?

    Piper Sandlerのこの調査については、Apple系ニュースサイト「9to5Mac」が記事として紹介しました。Piper Sandlerの今回の調査では、全米に住む平均年齢 16.1歳の10代の若者6,020人が回答を寄せたということです。

    その調査結果を見ると、その内容は非常に幅広いものになっていますが、「9to5Mac」はその中でITに関わるものをピックアップして紹介しました。

    例えば、「10代の若者のInstagram利用時間が大きく伸び、よく使われるアプリの第2位になった。1位は前年と変わらずTikTokで、3位に落ちたのはSnapchat」といったデータや、「10代の若者は毎日の動画視聴時間の29%をNetflixに費やし(前年調査より2.1ポイントの減少)、27%をYouTubeに費やしている(同1.3ポイントの減少)」といったデータを紹介していて、若者たちの好みのアプリ傾向が変化していたり、動画視聴時間が微妙に短縮したりしていることを指摘しています。

    ほかにも、「10代の若者がカスタマーサービスとのやり取りに利用するのは相変わらず音声通話で約50%のシェアを維持。テキスト/SMSは長期的な成長傾向にある」ということも取り上げ、若者といえども顧客対応の現場ではまだまだ音声通話が重要であることも紹介されています。

    元のPiper Sandlerの調査データを深掘りすれば、もっと興味のあるデータはたくさんあるのですが、ここでは割愛します。

    そして「9to5Mac」が記事で最も注目したデータは、冒頭でも触れたように「アメリカの10代の若者の33%がVRデバイスを所有している」というものです。

    さらに同じ調査結果の中から「2023年秋と比較すると、若者たちの週当たりのVRデバイスの使用率が10%から13%へ増加した」ということも紹介しています。

    33%というと、3人に1人という勘定になります。平均16.1歳の高校生にとって、スマートフォンの普及率はほぼ100%だとは思うのですが、3人に1人がVRデバイスを所有しているとは、驚きの調査結果といえるのではないでしょうか。

    使用時間が長くなるという調査データが得られるのも必然のことでしょう。

    日本の10代の若者はVR/ARにどんな思いがある?

    一方で、日本の10代の若者にとってVRはどれほど浸透しているのでしょうか? 国内で若者だけに焦点を当てた調査は無いのですが、いくつかの調査結果から推測してみましょう。

    まずは、アイブリッジ株式会社が2023年12月に国内15歳以上の男女1000人を対象にして実施した「VRに関する調査-最新機器とサービス全般への興味・関心-」の結果から(発表は2024年1月)。

    VRの認知度は「知っていた」が約6割(63.32%)と半数を超えています。しかし「使っている」「使っていた」というVR経験者は合計しても約17%(17.22%)に。

    「使ったことがない」という人が8割超え(82.78%)という結果を鑑みれば、まだまだVRが日本に浸透しているとは言いがたいでしょう。

    これらのデータはPiper Sandlerの調査データとは異なり、必ずしも10代の若者に絞り込んだ調査ではありませんが、利用率から考えてもVRデバイスの所有率がアメリカのように3人に1人という割合にはならないことは明白でしょう。

    ただ、同調査では「今後もVRを使っていきたい」と回答した人が88%を超えています。

    このことからも、VR体験は継続する価値があるということを未経験者に伝えることができたら、今後のVRデバイスの普及拡大につながることになるでしょう。

    もう1つ、興味深い国内の調査を参照してみましょう。こちらはARについての調査で、AR開発を手がけるプレティア・テクノロジーズ株式会社が行なった「AR浸透度調査」です。

    日本全国の15~59歳の1,000名を対象にして行なわれたこの調査結果からは、ARについて認知している人は6割を超えているという結果が出ています。

    さらに、ARについて認知していて、どういう機能であるか内容まで把握している回答者は若年層ほど多く、またARに関心が高いのもまた若年層ほど多いということが明らかになっています。

    特に10代はいずれも突出して高い結果が出ていて、今後ARが普及・拡大していくことに大きな期待が持てそうです。

    キーワードは「非日常」と「利便性」

    アメリカではVRデバイスを利用する若者の姿が顕著になっていますが、このように日本ではまだ「期待したい」というレベルに留まっていることが調査結果から明らかになっています。

    では何が普及のきっかけになるのか? ということも、今回ここで紹介した調査結果にヒントがありそうです。

    まず「VRに関する調査-最新機器とサービス全般への興味・関心-」には、「VRを使うことで便利になると思う分野」という質問がありました。

    これに対する回答は「ゲーム」「映画」「スポーツ観戦」「ライブ」「旅行・観光」などエンタメ・娯楽分野のものが多かったようです。

    また、「医療」「不動産」「住宅リフォーム」にもVRが活用できそうという声もあり、エンタメや娯楽よりも日常的に、普通の生活に密着した物ごとの「利便性」の向上にVRが活用できそうだと考えていることが分かります。

    また「AR浸透度調査」でも、ARの利用で期待されているのは「ゲーム/エンタメ」「エフェクト」といった機能ですが、今後は「ユーティリティ」「情報」「ナビ」といった機能に期待しているという声が多く挙がっています。

    ARについてもやはり、「非日常」と日常の「利便性」の両方で利用できるようになることが期待されているようです。

    日本と世界のXR市場動向にはまだまだ大きな差があります。

    正式な調査が行なわれていないのが残念至極ではありますが、日本で10代の若者について調査したとしても、おそらくはアメリカのように「高校生の1/3がVRデバイスを所有している」というような調査結果には至らないことと思います。

    しかしながら、若者の感性がITの未来をつくっていくことは、これまでの日本の文化や風俗の発展をみても間違いないことです。

    XR(VR、AR、MR)についても、若者たちがその文化を醸成していくだろうことは調査結果のデータからも想定できそうです。

    そして若者たちはXRに対して必ずしもゲームやエンタメのような非日常の娯楽を求めるだけではなく、実用的な使い方についても追求する真剣な一面も持っているようです。

    いずれXRデバイスがスマホのように広く普及する未来がくるかもしれません。そのときには、必ずしや若者たちが社会を変革させるトリガー的存在になることでしょう。実に楽しみなことです。

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